辻畑隆子作品をめぐる旅

 初めての遠足に浮かれた小学生のように、12時に寝て5時前に目を覚まし、支度の続きをする。
 実は、新調したリグを使うのは初めてでまいあがってしまって、同時に新調した一脚のことなどすっかり失念してしまっている。やむを得ずありあわせの一生モノの一脚を、周囲の人に脅威にならないように手提げ袋に入れて持っていくこととし、カルマーニュ530についてきた自由雲台をつけて間に合わせたつもりになってみる。
 放射冷却で冷え込みの厳しい中、余裕をもってバスで西新ステーションに出て、西唐津行き地下鉄に乗車。終点で呼子行きバスにトランジットして、9時頃に呼子到着。
 早速朝市通りの設置場所に行ってみる。今日は、お隣りの観光名所(鯨組主中尾家屋敷)がお休みなので、人通りもまばらである。光線の回り具合を見ながら2 shot撮像した。

 民家の1階の屋根から抜きん出る大きさなのであるが、周囲に花壇のレンガの囲いがあるのでその上に登らせてもらって一脚で頭のてっぺんから足の爪先までスキャンすることができた。上が普通に撮像したもの、下が3D Gaussian splattingしたものである。辻畑隆子《風、間問う》
 3D スキャンした《風、間問う》でちょうど正対する視点でレンダリングして鑑賞させてもらうと、何か気品の高さが再現できてないようなものたりなさ感を感じてしまった。
 《風、間問う》にしても《開》にしても実に高い台座に設置されていて、パースペクティブがついてプロポーションの見え方が変わり、十頭身以上に小顔に見えるのがその一つの要素なのだろうか。さらに、彫像の視線が鑑賞者のそれと交差せず、ずっと高いところでまっすぐ遠くを見ているところに、何か憧れのような気持ちが生まれる心理効果を計算されているようにも思われる。鑑賞時の仰角から適切な台座の高さについて論じた岡本論文に取り上げられた、佐藤忠良《裸のリン》をはじめ、《開》阿部誠一《女の子ー平成ー》などの超高台座系彫刻の撮像に挑戦してみたい。

 次に鯨組主中尾家屋敷の建物を回り込んで、辻畑隆子《親子鯨》を発見、こちらも撮像した。

高齢者割引運賃の科学

 高齢者になると、交通機関の割引運賃が利用できる。当地での割引についてまとめてみた。
 福岡市市営地下鉄は全線乗り放題になるちかパス65(1か月6000円)、西鉄バスグランドパス65(1か月6300円)では、ほぼすべてのバス路線に乗れ、高速バス・特急バスも比較的近距離の指定路線なら半額、西鉄電車運賃もNimocaポイントへの20%キックバックという割引がある。いずれも専用のICカードを持たされ、スマホに移し替えはできないのが欠点だろうか。お得なのか、そうでないかは利用頻度や利用路線によっても変わる。
 ちなみに筆者が天神まで往復するのに、最寄りバス停から地下鉄駅前バス停まで(往復)420円、最寄り地下鉄駅から天神まで(往復)600円である。月に10往復以上するならメリットが出てくるが、どうだろうか。逆に今月はパスを買ったので毎朝ビーチコーミングに行って元を取ろう!というのなら励みになりそうかもしれない。また、グランドパス65には誕生日の前後1ヶ月なら、一回限り(つまり一生に一度だけ)1か月券を安く買える特典があった。特典が失効して3ヶ月も過ぎてから気がつくのは悔しすぎる。とは言え、気がついていてもまだバス乗りホ生活には程遠かったに違いない。
 航空会社では、スマートシニア空割(ANA)当日シニア割(JAL)マイレージカードを持っている高齢者で使用可能である。予約できるのは「搭乗日当日(0:00)~出発時刻の20分前まで」、「空席待ちは承れません。」というのである。どのような高齢者が利用することを想定しているのか、筆者には想像できない。旧友の急の不幸に駆けつける高齢者とか、一応支払いまで済ませたチケットを安全牌にして、当日それをキャンセルしてできた空席をスマートシニア空割で取り直すような綱渡りのできる、時間に余裕のある高齢者とかだろうか。JALカード会員は、55才以上になるとJMB G.G WAONカードがとれて、主に陸マイルが貯められそうである。
 JRは、ジパング倶楽部(年会費3,840円)に入ると全国のJR線のきっぷが年間20回まで最大30%割引、JR西日本線のきっぷがネット購入で何回でも30%割引となる。ただし割引が適用されるのは「4月27日~5月6日、8月10日~8月19日、12月28日~1月6日の全ての期間」を原則除外した期間で「片道・往復・連続いずれか201キロメートル以上ご利用の場合」である。フリーランスで年間20回も往復201 kmを超える旅程で国内を飛び回るような仕事がいただけるようになるのかはっきりしないが、open art tourismのために一応確保してみることにした。
 なお、70歳になってからは、高齢者乗車券(福岡市交通用福祉ICカード、居住地によっては利用可能な別の種類の券)が福岡市から支給される。5年の辛抱である。これもスマホには格納できないのが残念であるが、そのうち変わるかもしれない。
 さて、65歳になって数日のうちに送られてきた介護保険証は、懐かしい昔のままの厚紙3つ折りの体裁のものであった。人口の1/3の人が持っているはずなのに、これがマイナンバーカードに統合されていないとはけしからん、というような国会論戦になっていないのはどうしてなのだろう。高齢者とはデジタル難民だから紙のほうが扱いやすいだろうという忖度だろうか。まん中の子が贈ってくれたパスポートケースに入れているが、今後もマイレージカードやジパング倶楽部会員手帳などもあわせて格納するようになるのだろう。60歳でもらったときには想像もしていなかったが、こういう後々感謝される心遣いがなにかのヒントになるのかもしれない。

辻畑隆子作品をめぐる旅(wishlist)

 退役のお知らせのはがき書きも一段落して、辻畑隆子作品の「推し」かけ3D Gaussian splattingを進めようと、大分県内の作品分布図を参考に一泊二日のルートを考えてみる。
 オープンアートとして鑑賞できる作品のうち、《開》とならんで推しの一二をあらそう《風、間問う》が呼子から撤去され、他に国内所蔵が公表されているのは滋賀県の佐川急便のみで、一般に公開されているような情報も見つからず、ため息をついていたら…呼子の元の設置場所から通り一本奥に入った私有地に移設されていることが判明。道の脇に設置され、ご迷惑をおかけしないようにすれば撮像させていただけそうに見える。素晴らしい。今すぐにでも!と言いたいが、フリーランスのメリットを活かして平日に撮像におうかがいしたい。

《風、間問う》唐津市
 うっかりしていたが、お隣りの中尾さんちには《親子鯨》が配置されていることに、いまさらながら気がついた。
 以下の辻畑作品をめぐる大分県の旅のwishlistは、朝倉文夫記念館訪問を加えて二泊三日で計画し直すこととする。

作者不明《イルカと少女の像》マリンピアむさし

《O風》日出町役場
《飛翔》日出総合高校(厳密にはopen artではなく、撮像許可をいただき、校内立ち入りをお認めいただくようお願いが必要である)

《希求》大分県立病院中庭なのでかなりハードルが高そうである。

《立ちどまる風》大分市平和市民公園芝生広場

《開》大分市平和市民公園能楽堂

《∞風》大分県立佐伯豊南高校(厳密にはopen artではなく、撮像許可をいただき、校内立ち入りをお認めいただくようお願いが必要である)

《はずむ風》玖珠町メルヘン大橋

《翔》日田市役所

知識労働者と《プロフェッショナルの条件》

 今年の4月の初めには、中部地方の県知事さんが、新採用の職員に向けて、職業差別かもしれない訓示をしたのではと物議を醸したりした。報道されている発言の要約によれば、どうも県の職員たるもの知識労働によって県民を幸せにすべきであると伝えたかったのが真意ではないかと考えている。
 昨年3月のある講演では、ドラッカー《プロフェッショナルの条件》を引いてわれわれ知識労働者の寿命は帰属組織よりも長いと承った。
 ngarts.hatenablog.jp
 その時にはあまり気にもとめなかったが、退役の日が近づくにつれて、年金に収入を頼る心細さよりも、フリーランスなknowledge workerになれることに誇りと期待を感じたりもした。が、実のところ、筆者が最新の論文に(あまり)不自由なく触れられていたのは、実に帰属組織のサブスクリプションのお陰であったという事実に気づいたのであった。
 すなわち、ドラッカー氏の時代はいざ知らず、いまどきのようにヒト・モノ・カネに加えて情報がないと仕事にならないknowledge workerにとって、帰属組織をもたずフリーランスで研究を続けるのは経済学的困窮につながる、という法則を発見したようにも見える。
 後日記(2024-05-08)>ちょっと目を通してみたい旧刊絶版本が、市の図書館蔵書には見つからず。県立図書館の横断検索でも県内図書館に蔵書なしと出る。amazon.co.jpでの古書の販売価額は、年金生活している知識労働者が中身も確かめずに購入するにはかなり高い。

新年度のTV番組

 年末年始に放映され、その後も放映のたびに知的好奇心を刺激されたのが、《わたしの芸術劇場》《名品再生~ネオレトロの世界~》であった。
 《わたしの芸術劇場》は、各回それぞれに興味深く拝見し、紹介されたミュージアムグッズをヤフオクで入手したり、画面に写り込むものにヒントを得て、今度の上京の折にきちびを訪問しようと考えている。
 《名品再生~ネオレトロの世界~》は、純粋に職人技(アート)の紹介という以上に、名品の背景にある文化に焦点が当たるところに魅力を感じている。
ngarts.hatenablog.jp
 また、《あの本、読みました?》、《川島明の辞書で呑む》についてはそれぞれ4月、5月からレギュラー番組化することが発表され、大変楽しみである。
www.bs-tvtokyo.co.jp
www.tv-tokyo.co.jp
 放送大学では《フィールド・ワークと民族誌》、《宮沢賢治と宇宙》、《計算の科学と手引き》、《生物の進化と多様化の科学》、《障害者の自立と制度》などを受講する所存である。

Scaniverse SPLATモードで以前のデータを再解析してみる

 先日の御堂筋彫刻ストリーㇳロケでは久々にScaniverseを起動して、version3.0.0にバージョンアップされSplatモードが追加されていることに気がついた。試しに使ってみるとなかなかスマートに撮像できたので、結局全てのスキャンをSplatモードで行った。
 以前スキャンしたraw dataが残っていればSplatモードで再解析できると読んで、Mesh構築がどうしてもうまくいかなかった作品群のデータをダメもとでかけてみたら、破綻のない3Dモデルが突如現れて感激した。
 さらに、顔や指先の表情などが表現に届く精密度で再現されてきたように思われる。素晴らしい。下記は同じデータから2つの解析方法で得られる画像を比較したものである。Meshモードでは、いずれも頭の大部分が吹き飛んでしまうが、SplatモードのAIはいい仕事できている。一方で、鋳肌のディテールの再現では、かなりささくれだったような印象のSplatモードと比較してMeshモードの方が見た目に近く再現されているように思われる。

(笹戸千津子《若き立像'85》左:Meshモード;右:Splatモード)

(阿部誠一《女の子二人》左:Meshモード;右:Splatモード)
 さて、raw dataや3Dモデルのデータの保存場所は、自分のiPhoneフラッシュメモリかそれをバックアップするか、あるいはNiantecのサーバーか、という選択肢しかない。筆者はiPhone 12 Proで撮像したデータをお蔵入りさせたままでiPhone 14 Proに移行してしまった。あの時のデータも再解析してみたいのだが、そのためにはScaniverseデータリストア専用に中古iPhone 12 Proを安価で手に入れるか、あるいはもう一度北九州市にスキャンに出かけるかしかなさそうである。
 

人を育む社会を育む

 念願かなって、第二の父母祖母の墓参を果たす。11時に墓所に集合して、40年ぶりに同じ釜のメシを喰った同胞と再会。第二の父母はこの世にないが、あの頃まだ小学生だった娘さんがいろいろとお世話してくださった。ありがたい。
ngarts.hatenablog.jp
 墓参のあと、懐かしい築百一年の母屋に案内していただく。小宴をご準備いただいていて恐縮する。あの頃は6年間裏口から食堂に出入りしていて、正式な玄関は、一番最初の手続きのときくらいしか入ったことがないような気がするのだが、そこに立派な書が掲げてあるのに気がついた。最初に手続きのためにうかがったときにも見かけたような気もするがさだかではない。その場ではうまく読むこともできなかったが、帰途のぞみの車中で拡大して書かれている文字が読み取れて…後に原典が武者小路実篤《友達の喜び》であると知る。

友達と話しして/話がはずんで来て/二人のこころがぴったりぴったりあって/自づと涙ぐむとき/人は何物かにふれるのだ
 先代のすゑおばあちゃんが下宿屋を始めたのは、ご親戚で東京の大学に行った方が苦労されたことを聞いてのことだったという。ひょっとすると書を書かれたのはその苦学されたご親戚の方かもしれない。
 悪さをしてご近所の迷惑になるような貧乏学生を、社会の片隅でお役に立てるようにちゃんと一人前に育ててくださったのは、実に謙虚で慎み深い、すゑおばあちゃん、初ちゃん、マサアキさんの慈しみのおかげである。
 なにか教えてやろうとか、背中を見て覚えよというわけでもなく、怒られたという記憶もなく、まさに「ご薫陶」によるのであるが、その秘密を解く鍵がこの書にはあるような気がする。あらためて第二の父母の深い愛に感謝したのであった。
 先日の最終報告会の後の懇親会で、自分の中のコアまで降りて、そこにあるものを持って返ってくる質問が出た時に、この書の画像があれば、話に百万倍説得力が加わったかもしれないのだが、機械学習でつながるニューロンのネットワークになぞらえるならば、

この「ほえた」はまちからものを貰ってばかりはいなかった。見ようによっては何者かを町に与えていた。多分町の人達は与えたものよりも、彼から貰ったものの方が多かったかも判らない。<<乞食の贈り物(pp.154-157)
ngarts.hatenablog.jp
www.aozora.gr.jp
とつながっているかもしれない。
 あるいは、ツアーで訪れた先でうかがった、suusenテンプルコミュニティハウスのオオタニ元館長も、多くのものを若い人に与え続けた方であったと思われるのだった。

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