NeXTキーボードとは
30年以上前に設計されたNeXTキーボードを、いまWindows PCで使っている。
単なるレトロ趣味ではない。
指を置いた瞬間、「これはSteve Jobsが目指した道具だったのだ」と思わされる。
NeXTキーボードには、Steve Jobsの美学とユーザーインタフェース(UI)の哲学が込められている
Steve Jobsは、Apple computer社で業績不振の責任を問われて追放された時期に、NeXTコンピューターを設立した。
NeXTワークステーションは、Macintoshを越える先進のハードウェア・ソフトウェア環境を、洗練されたデザイン(マグネシウム合金製マット仕上げの黒い立方体)の筐体やキーボードに実現させた独創的なものであった。
その優秀な開発環境(NeXTSTEP)が、Tim-Berners Lee博士による世界初のWorld Wide WebサーバーCERN httpdの開発・運用にも使われたこと(1990年12月25日に稼働)も書き加えておきたい。
NeXTキーボードのキー配列で、GUIの源流に触れる
いまWindows PCはじめマルチプラットフォームに使えるキーボードでは、コマンドショートカットのかなめとなる[control]キーが[Windows]キーと並んでスペースバーの隣りに位置している。
NeXTキーボードの[control]キーの位置は[A]キーの左隣である。当時の業界標準であった伝統のVT-100配列に従った配置で、今となっては古風に見えるが、これは当時から指使いの難しいキーの組合せでショートカットしていたということではない。
Macintoshでは、⌘(コマンド)キーを中心としたショートカット文化が早くから確立され、NeXTSTEPもその伝統に従っている。一方、WindowsではCtrlキーを中心とするショートカット体系が普及した。
NeXTキーボードを使っていると、単に古い道具を使っているのではなく、この、現在も使われ続けているUI思想の源流*1に触れている感覚を体験できる*2。
だから筆者は、これをレトロ趣味とは思っていない。
NeXTキーボードには製造時期によってキー配置のデザインやインタフェースの異なる製品が存在する。

non-ADB NeXTキーボード
独自の(PS/2やADBなどとは互換性のない)インターフェースのものが使われ、non-ADBタイプと呼ばれている。
筆者が所蔵しているのは、2000年に秋葉原で見つけた日本語配列、リターンキーが逆L型になっている中古品である(時にオークションサイトに出品されているのを見かけることがある)。
筐体のフレームが手前に向かって斜めになっていて、(当時Apple Macintosh IIに併売されていた)Apple keyboard IIのシリンドリカル形状を思わせるが、円筒の一部を切り取った湾曲はあまり感じられず、むしろ平面的に傾けてあるシルエットのようにも見える。
特徴
重量が1 kgを超える重厚な作りで、打鍵の衝撃で筐体がブレず、安定感のあるタイピングができる。
キー配列は、リターンキーが逆L型、長いスペースキーが印象的でキーボードコレクションに掲載されている英語版配列(出典:株式会社PFU)をもとにした日本語配列という印象である。
物理スイッチは、Osamu様によれば
軽やかなクリック感がクセになるALPSクリーム軸
または
クリック感がややマイルドになったALPS黒軸
が使われているとのことである。(怖くて外したことがなく)未確認であるが、印象としては軽やかなクリック感のクリーム軸のほうだろうか。
わずかに押し下げが重く、周囲に漏れるカチカチ音を気にする向きもあるだろうが、タッチは申し分なく、とても気持ちよくタイプできる。
篤志の方が制作販売されていたコンバーターを介して、USBキーボードとして使用している。
リターンキーが大きくタッチタイプしやすいのであるが、他のキーボードに替えると指が慣れるまでは[backspace]キーの下を狙って"」"キーを押してしまう。
ADB NeXTキーボード
ADBインターフェースで、互換性のある旧式Macintoshには、つなぎかえればそのまま使うことができた。当時から持っていたADB-USBアダプター(iMate)を使用してUSBキーボードとしてWIndows PCに接続している。
Apple II GSキーボードに似たテイストで、重量は670 gほどでnon-ADBよりもやや軽い。筐体のフレームはシリンドリカル形状になっている。
また、標準的なキーの横幅がnon-ADBよりも心持ち短い。このためキーボード全体の横幅はキー1個分くらい短い。
その一方で、[Escape]キーは少し幅を広げられている。キートップの形状も少し陥凹が深いように感じる。
四半世紀前にオークションで入手したのが、貸した相手ごと行方不明になってしまっていることを思い出したところで、最近オークションサイトで見かけて、つい熱くなってビッドを競い、落札の栄に浴した。
指がキーに触れたときのグラグラ感を「浮動」と表現するなら、non-ADBタイプのそれは「ほとんど不動」とくらべるとかなりフィーリングが異なる。
経年変化のためか、潤滑油切れしたような、何かこすれる感じのストロークで、non-ADB のシルキーなタッチとはかなりフィーリングが異なる。
「クリック感がややマイルドになった黒軸」、なのだろうか。
特徴
本機の最大の特徴は、スペースキーの外側についたcommandバー(キー)で、歴史的にも唯一無二と思われる。
ちょっとご自身で試してみていただきたいーー1990年頃にタイムスリップしたつもりになって…
スペースバーの手前の筐体の縁をコマンドバーに見立てて、
コマンドバーを左手親指で押さえて、select all、ついでcopyとpasteのコマンドショートカットを発行する
という『指の体操』を.。
ふだんは小指で[control]キー、薬指で[a]キー、人差し指を[c]キーと[v]キーとにを行き来させる方でも、親指がこの位置なら、小指で[a]キー打鍵して(select) allコマンド、中指で[c]キー打鍵してcopyコマンド、続いて人差し指で[v]キー打鍵してpasteコマンドを発行するのが自然に思えてこないだろうか。
これをどうしてもやってみたくて落札したものの…
ADB-USBコンバーターでWindows PCにつなぐとcommandバーは[Windows]キーとして認識されるので、現在はスタートメニューを出したり、スクリーンショットをとるのに利用している。
優れたユーザーインタフェースは古くならない
30年以上前のキーボードを毎日使っていて思うのは、優れたユーザーインターフェースは古くならないということだ。
その思想が、姿形を変えつつ、いま私たちが毎日使っているPCの中に受け継がれていることに気づかされる。
*1:⌘キーを中心としたショートカット文化がMacintosh OSで登場した時、当時のCUIでMS-DOSを使っていた筆者はしばらく仕事にならなかったことを覚えている。その後NeXTSTEPはMacintoshを受け継ぐ形で、またMicrosoftが遅ればせに、MS-DOSをGUI化したWindowsを出すことに数年先駆けていた。Windows登場にあたっては、Appleとの特許権侵害訴訟問題が起こり、look & feelが似ていないように見せる印象操作の一環で、[control]キー中心のショートカットUIにに「変異」したのが原因で、遅れてやってきた[control]キーは、現在のWindows PCでも左手小指で打鍵しやすいスペースバーのすぐ隣に配置されている。
*2:またFunctionキーがないこともSteve Jobsの美学の現れと言われている。ただしWindows PCでは、Functionキーを押しながらブートしなければならない非常時の対処のために、ライフベスト(Functionキーのあるキーボード)を用意しておくのが望ましい








