別冊サイエンス:コンピューター・ソフトウェア、

 表紙に見覚えがないので、本当にこの本を買って読んだのかどうか、筆者には確信が持てないのだが…前書きには「この別冊の論文は、SCIENTIFIC AMERICAN誌の1984年9月号(サイエンス1984年11月号)に掲載したものを再録した」とある。筆者が読んだのは、この11月号であるのかもしれない。それで、おそらくその11月号にはなかったであろう、裏表紙のXeroxの「ソフトな頭脳。Smalltalk-80」という広告に感激した。ここには例のSmalltalk熱気球の画面コピーとともにスーパーパーソナルコンピュータFuji Xerox 1100 SIPの写真も掲載されている。
 光の速度で進化しているこの領域で四半世紀前の文献というのは今となっては考古学的な価値しかないように思われるかもしれない。絶滅したソフトウェアのマニュアルならそうかもしれないが、その思想や哲学は今に生き残り、進化したパーソナルコンピュータの上で大きく花開いているわけである。当時、マンマシンインタフェースの明るい未来を予見させるソフトウェアとして紹介されているVisiCalcは、今のお節介な機能満載のエなんとかというソフトの遠いご先祖様であるが、筆者としてはあの頃の夢や憧れに再会する思いで読んでいるうちに、実にそれらは深層意識にしみこんでいて、いまだに日々(セルを区切る)格子を眺めるときに、筆者の感情に特別なひそやかなさざ波を起こしていたのだと気がつくのである。
 筆者が、Mac OS X版のEvernoteに直観した(はずの)database browserも、哺乳類から階層的にたどってSilver Foxのデータをブラウズする図をAlan Kay氏の巻頭論文中(p. 14)に見つけることができた。しかし、これは画面コピーではなく、おそらくビットマップディスプレイのレーザープリンタへの紙焼きであった。それが四半世紀の間の記憶の美化というものというものかもしれない。
 そして今、四半世紀をすぎてみると、筆者の目の前にはDoradoとSmalltalk-80の(直系ではないが)安価で高性能な子孫が稼働しているわけである。実によい時代に生まれたものだ。[本]

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