五郎さんがカバンを変えた理由

 筆者の鞄は、青木鞄の枯淡シリーズで、孤独のグルメの主人公井之頭五郎氏がseason8最終回まで愛用していたいわゆる「五郎さんのカバン」の型違い品である。season 9以降、五郎さんの持ち歩くカバンは変わってしまったが、筆者はガラス仕上げの鏡のような美しい皮革表面に惚れ惚れして使ってきた。ところが、このご時世で手指消毒をする際に度々消毒液がかかって、その跡が目立つようになってしまった。消毒液に含まれる何らかの成分が染み込んで褪色したのではないかと考えて、シュークリームでごまかそうとしてみたり、CEOに頼んで買って来てもらったベンヂンで拭いてみたりしたが事態は変わらず。

 ネットで検索してみたら、皮革製品に手指消毒剤の跡がつく問題は実はみなさんお悩みの「コロナ禍のあるある」であることがわかった。
 大抵のドラマが「新型コロナウイルスのない世界」で演じられている中、五郎さんは、お店に入る時には手指消毒をかかさず、黙食の途中でも追加オーダーする時にはマスクをつける。押し付けがましくなく市民の感染対策意識を啓発する制作方針はまことに尊敬に値するのであるが、そういう生活の中で、あの枯淡シリーズのカバンは消毒液のシミだらけになって退役してしまったという設定だったのではないか。と今さらに思われる。
 皮革の問題に詳しい専門家のご説明によると、変色のメカニズムは、消毒液のアルコールが皮に染み込むときに色素を溶かして、一緒に蒸発してしまうためという。
 心を込めて作ってくださった方々には申し訳ないが、筆者のカバンのシミをよくよく観察してみると、液のかかったところや液ダレの先端の雫が溜まったところなど、蒸発するまでに時間がかかったであろうところの変色が強いように見える。
 しかし、筆者としては、色素が常温でアルコールと一緒に飛ぶほど沸点が低いのか気になる。皮革表面から内側に向かってアルコールが浸透して行く際に表面の色素を溶かして内側に移動させる一種のクロマトグラフィーが起こっているのではないかと考えた。この考えを確かめるには、シミになっている部分を含めて断面を作って観察すればよいが、実験代が高くつきすぎる。
 もしこの仮説が正しければ、有機溶媒に溶ける脂溶性の色素成分を、もう一度表面に補ってあげればよいと考察できる。しかしながら、周囲との色むらが出ないようにするには科学よりもアートの魔法が必要なのは間違いあるまい。と考察したところで、水拭きを試してみたら、驚くべきことにある程度の改善が見られた。普段少々雨に降られても変色に影響するとは意識していなかったので、水で拭いて落ちるのにはびっくりしている。

 一番目立つライティングで撮ると、白くなっていた部分で、拭き取れたり、うまく拭き取れないまでも場所が移動したように見える部分は、消毒薬の中の何らかの成分が析出したもので、表面の色素が抜けたところは、クロマト効果で色素が内部に移動した部分かと思われる。表面の油分をマイルドに拭き取って、さらなる水拭き効果を期待できるだろうか。
 拭きすぎで表面が傷んできているようにも見えて心が痛むので、しっかりトリートメントできるよう準備して次の段階に進みたい。

本ブログではamazon associate広告を利用しています。