奥野宣之《情報は1冊のノートにまとめなさい完全版》

 1冊のノートにすべてを集約して(言い換えればライフログを取って)、これを「知的生産」につなげようという提案の書である。
 情報を1か所に集約すると、検索する時に迷わなくてすむというのは指摘の通りである。一方で、本書の著者のような数百冊のノートを所有している人が、ファイルしているすべての情報にアクセスできるかといえば、多分できていないと推測する。タグ付けやタブ付けによって、迅速に求める情報に到達するtipsが提案されているものの、もともと網羅的に収集されたデータベースではないし、そもそも検索の網羅性を測定する試験法がない(のかもしれない)。
 梅棹流知的生産の方法では、京大カードに情報を整理することが提案され、そのカードは実際に丸善で買うことができた(と記憶しているが、今でも売っているのかどうかは詳らかならず)。同様にー旅の間の記録だけに限定してーなんでもかんでも貼り付けるスクラップブックを作ることは佐貫先生の提案であった。
 野口悠紀雄先生は、使用済み封筒の中に入れたA4サイズの書類の束を更新の時系列で配置を行う超整理法を考案し、ディレクトリコマンドでファイルを更新の時系列順に配列できるということに着目し、テキストファイルに記録を集約して超整理法的に整理することを提案された。
 筆者のEvernoteの使い方はその延長線上にあって、実際に本棚2スパン分ほどの超整理法の封筒をスキャンしてPDF化してはEvernoteに移していくところから始めた。現在蓄積している15,044のノートの中には自炊した本が丸々一冊分含まれるノートもある。なんとなく、そういうのは1冊のノートブックと呼びたくなるが、PDFファイルを1個貼りつけた1頁のノートと見なされる。2009年から使い始めて6年の間のテクノロジーの進歩で、手書きのものも含めて全文検索が可能になっているので、ここ6年の間に目を通したもののかなりを網羅してキーワードで全文検索できるようになっている。もちろん、収集した情報の中では網羅的に検索できるということであって、その収集には個人の好みというか、情報処理能力の限界がある。前の時はどう書いて出したっけ?というような定型的な仕事の局面では大層参考になる。ソフトウェアのアップデートもめざましく、15,044のノートの検索も数秒でできる。ハードウェア面でScanSnapやある程度のパワーのある計算機は必要であるが、集めた情報の検索の網羅性という点では最も効率が高いと考えられる。月$5.99の使用料は、アップロードのquotaが外れたことから考えると安くなったが、調子に乗って100MB越えのファイルをいくつか登録すると警告のメールをくらってしまった。
 一方で、三國一郎《糊と鋏》のように気軽に始められないのはきっと難点なのだろう。ノートにスクラップしていくのはかなり楽しそうであるけれど、これをEvernoteと二本立てでやるとなったら、おそらく著者の勧めから外れてしまうのだろう。
自分好みの情報を編集して世界で一冊しかない自分用の手帳を出版するという感覚と、すべてを時系列に貼り込んだS/N比は低いかもしれない本を作るという感覚のちょうど中間の、関連性を必死で考えて脳を活性化させるあたりが、筆者には「使える」ような気がする。
あまり真剣に集約を考えてないのは、スケジュールをGoogle calendarで、細々とした伝票類などはEvernoteで、さらにもう少しメタな情報はHatena Diaryで管理していて、これだけでも3か所に分散させているためではないだろうか。
 
 

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