津奈木町で岩野勇三作品を一気鑑賞


 津奈木町のことを最初に知ったのは、大分に野外彫刻ロケに行った帰りの特急の車内の広報誌であったように記憶する。北九州美術館の参道(というかプロムナード)の岩野勇三《リカ》は印象的な作品であり、津奈木町のホームページで岩野勇三作品が集中して見られるということから、いつか来てみたいと念じていた。
 まず、津奈木駅の正面の岩野亮介(勇三氏のご子息)《千代像》、津奈木川沿いに下ってあけぼの橋の《爽風》、《風ん子》、《薫風》、町役場の《那有》、《若い女》、《はぐれっ子》、引き返してグリーンゲイト付近の笹戸千津子《シャツ・ブラウス》、つなぎ美術館の佐藤忠良《トルソ》、《牧歌》と拝見。
 《爽風》、《風ん子》、《薫風》は潮風にやられないようにとの配慮であろう、金メッキされていて、橋の途中にしっかりした柱を立ててその上に設置されている。快晴のお天気ではまぶしすぎて、ディテールを観察できないきらいあり。朝な夕なの斜光線ではどのように見えるのか。このあたりは一定期間住んでみてわかるものなのであろう。

 《那有》は、町役場前の木立の中に設置され、木の葉の間の陽の光がスポットライトのようになって美しい。東京の八王子駅ビルと上越市高田公園にも設置されているという。
 《若い女》は、町役場入り口の中に設置されているので、閉庁日は観られないかと思っていたら、参院選期日前投票のためにお休みでも役場が開いているという千載一遇のチャンスで鑑賞できた。佐藤忠良氏の作品かと見間違えるのは、おそらく同じモデルさんであるということなのであろう。
 《牧歌》は、つなぎ美術館の2階からケーブルカーで重盤岩の中腹に登ったところに設置されている。舞鶴城公園と書かれているが、普通の(運動)公園とは異なって、国立公園の公園に近い意味合いの公園である。その昔には頂上にお城があったと聞くし、登山道もあるようなのであるが、とても歩いて登られる状態ではない。往復300円の券を購入すると、6人乗りくらいの小さなケーブルカーはオンデマンドで随時運行して下さるのであるが、クーラーもついていて、目測最大傾斜60°以上の絶壁を快適に登ることができた。
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 ケーブルカー終点は金属のすのこを敷き詰めたお祭り広場となっており、その脇に岩野勇三氏の遺作となった《牧歌》が設置されていた。かつて八代海メチル水銀汚染は水俣病として大きな社会問題となった。その水俣からわずか二駅の津奈木も漁業の町であれば、その影響を大きく蒙ったのではないだろうか。公害の暗いイメージを払拭することを念頭に製作されたという。ケーブルカー車内のアナウンスでは、がんを患いながら制作し、佐藤忠良氏の助けを借りて完成をみた遺作の由。『右手に持った葉をかじる女性。左手ににぎられた穀物をせがんで後ろ足立ちするヤギ。作者は食の安全を願って、しかしあえていさなとりではなく農業の神としてこの女性を登場させたのではないか』などと小学生のような感想文を書くつもりはない。正面がほぼ北向きで、背後には津奈木の町並みの絶景がひろがり、遠く八代海を望むこの場所は、おそらくもっとも《牧歌》にふさわしい鎮魂と祈りの場所なのであろう。逆光状態なので、なかなか表情を読み取るのが難しい。光線の回りのよい時間帯に、再度じっくり鑑賞してみたいが、ケーブルカー最終運行時刻は1630時であるというので、徒歩よりまうでる必要があるかもしれない。なお、《那有》と同じモデルさんなのか、編みこみのポニーテールで長さもほぼ同じように見える。
 なお、重盤岩(ちょうはんがん)は、阿蘇山火砕流の転石と推定されていると読んだが、なんとも日本離れした風景はアンセル・アダムスヨセミテを思い起こさせる。その先端に現在の天皇陛下践祚以来国旗を形容している由。

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