佐伯胖《マルチメディアと教育》,太郎次郎社,1999年

 佐伯胖認知科学の方法》は、研究室の中で駆け出しから中堅のメンバーになる頃に読んで、面白い抄読会をやるにはどうしたらよいか色々考えさせられたバイブルである。
 ごく最近、《状況に埋め込まれた学習~正統的周辺参加~(佐伯先生訳)》は、面白いOJTをやるための仕掛け作りのために、《ハマータウンの野郎ども》とともに砂漠の惑星の道標のような本になっていて、《生き心地の良い町》とともに、OJTに全く無理解な指導者に対する越境攻撃の弾頭として使うために追加購入。

 3年ほど前に何冊か買い漁って自炊した佐伯先生の古書の一冊をEvernoteで見つけて読みはじめたら、プロローグ「ぼくの後ろには道がない?」には、研究室の書棚の本や書類の整理をきっかけに、来し方を振り返って『だいたい十年単位で「変身」するクセが』あって、『「積み重ねてきた過去」というものがまるでない』ことをつくづく感じるという心境が吐露されているのである。『私たちには、今や過去を振り捨てて「思いきったことをする」しか残された道がないのである。』という一種の開き直りは佐伯先生ほどの認知科学のパイオニアでさえそうなのか、いや、だからこそそうなのかと思うが、ちょうど還暦の年に書かれたプロローグとしては、次なる変身を期したお言葉であったのかと思われる。実績は及ぶべくもないことなど言うべくもない、定年2年前となった筆者のこのところの心境と通じるものがある。
 

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