スパイスの科学(2) TRPA1に操られる人生

 「恐怖の臭い」がマウスを休眠状態に導いて低酸素状態での生存能力を高めているとの研究報告が関西医科大小早川博士らのグループから発表されたという。
 人工的に合成されたthiazolineがその恐怖の臭いのもとであり、これに曝されたマウスは次第に低体温になり、一種の冬眠状態になるという。
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 thiazolineは「煎った豆のような香ばしい匂いにも似ており、嗅いだマウスは逃げたり、体をすくめたりすることがわかっている。(朝日新聞デジタル2021年4月6日付)」というのだが、実にそのセンサーはTRPA1分子である。
 TRPA1は、物理的な約17℃以下の温度のほか、アリシン(ニンニクの辛味成分)、シナモアルデヒド(シナモンの辛味成分)、アリルイソチオシアネート(ワサビの辛味成分)、カルバクロール(オレガノの主成分)のスパイス成分が活性化刺激となるという。
 筆者はあまり感受性の強いほうではないが、以前の赴任地の旭川東岸のいわくあるような場所で、(煎った豆というよりは)線香のような臭いとともに何かに行き合ったことをビリビリ感知し、背筋が凍ることを経験したことがあるのを思い出した。また、夕方からのミーティングの前に商店街の中華料理屋さんの出前でニンニク入りのメニューで腹ごしらえした後はてきめんに眠り込んで、(起きた後)まさに背筋の凍る思いをしたことに思い当たったのだった。にゃごやラスクにすっかりやられてしまったことも懐かしい。
ここまではTRPA1に翻弄される人生についての考察である。
 その一方で、思い出すのは「未来への贈り物」である。最近げっ歯類ではQ神経による休眠が注目されているが、ヒトで実用化されて、難病の患者さんが、治療法が完成する未来までハイバーネーションする日が来るようになれば、と思う。
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 後日記(2021.06.15)>背筋がゾクゾクしたりする感覚は妖しい音楽体験のときに感じるものと似ているようにも思うので、ここに追記しておく。


 
 

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