21世紀のアマチュア科学者 第1編 天文学

 C L Stong編《アマチュア科学者》という、古い単行本がある。1950年代からのScientific American誌の連載コラムでアマチュア科学者の研究テーマを紹介したもので、中学高校の頃に市の図書館から借り出してワクワクしながら読んだ筆者にとって、影響を受けた本の筆頭に近い一冊といってよいであろう。

 その前書きの《アマチュア科学者に》でバネバー・ブッシュは、アマチュアとはなにか、科学者とはなにか、それらの定義を明らかにしようとする。「不幸なことに、アマチュアとは、あることをほんの少し知っているだけで、道楽でやる人であり、非常によく知っていて新しいことを作り出す専門家とは全く異質のものだと考えられているようです。」と呼びかけ、「専門家であろうとアマチュアであろうと、科学者の動機はただ純粋な知ることの喜びです。」(村山信彦訳)と説き、ビッグサイエンスでなければ科学ではないような風潮に異を唱え、知の喜びにつながる活躍の領域が誰にも見つけられるものであることを説いている。
 現実問題としては絶対にありえないが、もし今の時代にknowing few about something of modern scienceな筆者に《アマチュア科学者》の改訂の依頼が来たりしたら、一体どんな章立てでどんな方を紹介するだろうかと、分野ごとにシリーズで考えてみたい。
 まずは、《アマチュア科学者》目次にならって、第1編天文学からいってみよう。
 もともと彗星、小惑星や新星の発見とか流星群の観測などは、アマチュア観測者が活躍する場であったといってよいであろう。
 《アマチュア科学者》の第1編は、1 天文学のおもしろさ、2 初心者のための簡単な望遠鏡、3 望遠鏡の駆動装置、4 星のマタタキを止める装置、5 万能日時計、6 三次元の月の6章から構成されている。
 また、もともとのThe SCIENTIFIC AMERICAN book of projects for The Amateur Scientist 1965年版に掲載されていて邦訳の際に割愛された記事が、3編(5 An astrophysical laboratory in your back yard, 6. Using shadowed starlight as a yardstock, 8. A sundial that keeps clock time)ある。
 このうち、反射鏡を磨いて望遠鏡を作る「2 初心者のための簡単な望遠鏡」と赤道儀と追尾装置を自作する「3 望遠鏡の駆動装置」は、今でも残しておいてよいのかどうか判断がつきかねている。筆者が高校生の頃は、反射鏡磨きの名工がいらっしゃったし、反射鏡を磨いて望遠鏡を自作するための材料は入手できた。いまどきなら、普通のデジカメ機材の高感度CCDを利用してある程度までイケたりしないかとも思われ、ぜひトレンドを取材しておきたい。
 また、「5 万能日時計」は、今に通用する内容なので、ぜひ掲載をしたい。ただし、今ならレーザープリンターを利用して地球儀を作るところからスタートしてもよいかもしれない。
 「6 三次元の月」は、一人時間差ステレオ立体写真の撮影の話題であるが、今ならかぐやの撮像データを用いてのVRコンテンツが作成されていないか調べる必要がありそうである。
 彗星、新星ハンターと呼ばれるような方は、没後30年の本田実氏をはじめ古今多数いらっしゃる中で、今年5月に通算156個の新星を発見された板垣光一氏は、世界に誇れるアマチュア観測家と言えるだろう。その設備や機材、捜索の戦略や手法について誰にでも真似できるはずはないが、ぜひ紹介しておくべきであろう。
 続いては、流星塵による月面衝突発光であろうか。先日のペルセウス群極大の時に、流星塵が月面に衝突して発光する現象を捉えたアマチュア観測家がNHKニュースで報道されたが、月面を通過している人工衛星の発光や撮像センサーに宇宙線が飛び込んでの発光を除外できるように周到に配慮された観測が続いている様子である。
 また、火球追跡による隕石の捜索発見も最近のコロナ禍の中では明るいニュースであった。先日関東地方で広く目撃された火球の軌道が、アマチュアのネットワークSonotaCo Networkで記録された飛跡などから計算されて隕石の回収につながったというのである。以前アフリカに落下した2018 LAの破片回収に向かった捜索チームが、コンビニの監視カメラに写り込んだ影の動きなどから落下位置を割り出し、とうとう回収に成功するという番組を観たことがあったが、これらの回収プロジェクトも取り上げられてよいものだろう。
 監視カメラの遍在はまた、LED使用常夜灯の増加にもつながっており、夜の空の光害問題も何らかの形で取り上げておいたほうがよいように思う。
 21世紀のアマチュア科学者 第1編 天文学の構成は以下のようにしてはどうだろうか:
1 天文学のおもしろさ、2 初心者のための簡単な望遠鏡、3 望遠鏡の駆動装置、4 万能日時計、5 三次元の月、6 流星・火球の追跡、7 新天体の発見
 最初の5章はタイトルは変わらないが、取材によっては中を大幅書き直しするかもしれない。6章7章は書下ろしで、6章では月面衝突発光と火球追跡・隕石落下地点予測にもとづく捜索回収など、7章ではた彗星、小惑星、新星などの捜索が、デジタル撮像録画テクノロジーを活かして行われていることを取り上げるとどうだろうか。
 後日記(2021.08.22)>今年のペルセウス群は停滞前線にやられて見ることすらできなかった。こういう時こそ電波観測である。流星観測ハンドブックにもFM東京の流星エコーを受信する方法が紹介されていたが、今は国際的にアマチュア観測家が協力して観測網が作られている。
www.amro-net.jp
 後日記(2021.09.02)> いや、当地なら打ち上げられるH-IIロケットの追尾や、有名神社のご夕陽(ゆうせき)もよいのではないだろうか。
 

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