帰りに中央公園の様子をうかがう。寒気のため風の冷たい夜となり、公園内に残っているのは数人の高校生の男女のみである。
ただし、公園内は終夜照明が点いている状態で、彫刻がライトアップされているわけではないが、捜すのに苦労するほど暗くはない。
早速宿舎に戻って機材を整える。
阿部誠一先生の《女の子二人》は、弧を描くベンチの両端に向かい合って立っている二人の女の子の全身像である。姉妹というふうにも見えるし、同じ女の子が何年か後にモデルとなった彫像かもしれない。成長発達段階の異なる二人の女の子がダイアローグしている空間がそこにはある。
後日記(2020.5.9)＞「自宅近くで遊んでいた小学四年生と二年生の少女二人がモデル。」とある（田中茂春《アートな散歩道香川の野外彫刻53選》p.31)。
まずは東側の年長の女の子から始める。
ベンチにベビー三脚を置いて、背後の照明が写り込まないポジションを捜す。
NEX-5Tの30 mmマクロレンズ（35 mm画角換算でほぼ50 mm標準レンズ相当）でベビー三脚を使って全身を入れようとすると下からあおるようになるのだが、かなり見え方が変わってくることに気がついた。
これまでネットに上がっている画像では阿部作品は頭でっかちに写っている印象である。
自分で携帯カメラで撮ったのを見返してもそのように写っているのだが、これは広角のレンズで頭から（上から目線で）撮るので頭が大きくデフォルメされるのである。
これは果たして阿部先生の意図した見え方なのだろうか。「上から目線で見れば見るほど子供っぽく見える」というのは、何かいろいろな場面で通用しそうな教訓のようにも聞こえる。
どのような台座を想定し、どのようなパースペクティブを意図して造型されるのかについては、実は筆者にはよくわかっていない。が、一生懸命カメラで撮影しながら観察しているといろいろと気がつくこともある。
これを鑑賞などと言うもおこがましいが、今まで見えなかったものが見えてくるのは素晴らしいことである。
後日記(2020.1.1)＞岡本 直行：野外彫刻を対象とした表現における鑑賞について(3)−広島市「鯤」と「裸のリン」の調査から−、新見公立大学紀要 第39巻pp. 117−124, 2018.で、新見公立短期大学幼児教育学科の岡本先生はまさに「作品の全体像を捉えやすく、かつ楽に鑑賞できる」凝視角度の計測にもとづいて、open artの表現には台座の高さなどの展示環境が大きく関係することを論じておられる。
構図が決まるとフォーカスの調整と絞りの調整である。一旦絞りを開放にしてフォーカスを合わせ（て撮影時には絞り込む）のだが、フォーカスリングを少し動かすと撮像範囲の一部を大きく表示してくれる「フォーカスアシスト機能」をONにしていて、ずいぶん助けられている。その後絞り込んで撮像する。
シャッタースピードは2秒～2.5秒にしていて、その間にストロボ(Canon 540EZ)を発光させて一人時間差マルチストロボ撮像するわけである。
撮像感度と絞りの設定で、鋳肌の表面の色調や性状にあわせてストロボ光でどの程度の明るさに写すかを決めて、バックグラウンドを暗く落とす。
年のせいか、指が操作系を覚えていないのにかなり戸惑うが、設定が決まって撮り始めればこちらのものである。リモコンでシャッターを開き、ストロボのテスト発光ボタンで照らすことを彫像周囲を移動しながら繰り返す。単3電池12本（本体4本、互換バッテリーパックBP-CA18本）から電荷が補充されほとんど瞬間的にフルチャージされ、メモリカードへの画像書き込みが律速段階となる。ケース越しにバッテリーパックが発熱していることがわかる。なかなかいける。
たまにタカマツっ子が散歩や自転車で通りかかるが、挨拶したり求められて説明したりということもなく撮影に没頭させていただく。公園の一角にはポリスステーションがあるが、通報されるほどご気分を害した方もいらっしゃらなかったようである。芸術がわかっている方ならではのリスペクトフルな行動に感謝する。
年下の子の撮像を終わり、《大気》の撮像を終わり、やりきった達成感で一杯になって引き上げようとした時、タカマツミュ二シパールウォータービューローの前に《水邊》があったことを思い出した。場所を調べてみると、なんと今いる公園の西側の道を挟んで向かいではないか。背後に壁があるので、従来の時間差マルチストロボ画像の比較明合成では歯が立たなくなる可能性がある。
阿部誠一《女の子二人》
