カピッツァ《科学・人間・組織》

 以前から、筆者はカピッツァ博士のファンである。好きで好きでたまらない物理学をみんなにも好きになってほしいという熱い思いに初めて触れたのは高校生の時であるが、物理学問題集を読みかえすたびにその感激が蘇ってくるのである。
 最近、網羅と枚挙の吉川寛先生が公開されている科学と科学者についての名言集においても、博士の「科学・人間・組織(1974年出版)」が引用文献の一つにされていることに気がついた。筆者と吉川先生とはカピッツァを仲介に1次の隔たりでつながっているということだ。
 というので、amazon.co.jpで「科学・人間・組織」の比較的安価な古書を見つけた。もともと書影も登録されていなかったくらいで、目次のデータも表紙カバーのコピーもない。内容のごく一部が、研究組織の老化についての鋭い洞察であることを孫引きで知っているが、全体としてどんな構成で何が語られているのかあるのか、ほとんど知らなかったというべきであった。そこで、福岡市中央図書館の閉架から借り出して拝読してみた。
 目次
 Ⅰ 四人の巨人たち
  ラザフォードの思い出 1
  物理学者、社会活動家ポール・ランジュヴァン 13
  フランクリンの科学業績 44
  ロモノーソフと世界の科学 65
 Ⅱ 科学の将来
  科学の将来 94
  地球という名のわが家 123
 Ⅲ 科学の組織論
  科学と技術の融合 132
  物理問題研究所 140
  科学研究の組織化の問題点 165
  理論、実験、実践 170
  科学研究の効率 178
  科学技術の成果の実用化 183
 Ⅳ 科学者の養成について
  ラザフォードと若い研究者 196
  研究所の老化をふせぐ 206
  現代青年に対する創造性教育の若干の原則 213
 Ⅴ 論争への招待
  論争への招待 232
  情報の世界における人間 240
  原子戦争をいかに防止すべきか 252

  ピョートル・カピッツァ―訳者あとがきに加えて 261
 博士のすごさは、科学の進歩と価値についての時代を超えた信念と卓見ではあるまいか。筆者のような唐変木文化財的な価値のある書物を背中を裁断してスキャンしてしまってよいのだろうか?ともうしばらく悩むことにする。
 普遍的な内容ではあっても、いまどきの若い人にはやや理解が難しいのではないだろうか。もちろん、ちょっとした思いつきをパラダイム・チェンジとかなんとか知だのと囃したてる本当の科学を知らない大先生にも馬の耳に念仏になることは必須と思われる。

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