教科書の自炊

 学校で紙焼きの教科書を使っている場合に、重量のないPDF版を生徒一人一人に携帯させている実例が知りたい。最初から電子書籍を購入しているのではなく、紙焼きを電子化しなければならない移行期の悩みの解決法が知りたいのである。問題の状況をもう少し詳しく整理しておく。
 著作権上自分の所有する本を自炊して個人で楽しむのはまったく問題ない。そこで、学生や生徒一人ひとりが自炊すれば問題ないが、現実問題としては一人ひとりが裁断機とスキャナとPCとAdobe Acrobatを持つのは教科書を買う以上に大変なコストを必要とする。レンタルはありかもしれない。なお、閲覧するためのpad系端末は必須であるが、これは全員が所有できるように努力するという前提で考えたい。
 次の問題は、著作権者の権利の侵害である。すでに自炊ずみのファイルをコピーして、買っている教科書を売り払ってしまう、あるいはクラブの先輩のファイルをあてにして紙焼き教科書を買わない、どこかのサーバーにアップロードして誰でもダウンロードできる状態にしてしまう、というような由々しき事態になると教育機関としての見識が問われるようになってしまうのに違いない。
 著作権の侵害に当たらないかどうか検討を要するのは、自炊したファイルの作成者の、元の本を定価購入している他の生徒や学生へファイルを渡す行為と、他の学生や生徒が、誰かが自炊したファイルを自分の本の複製(と同じもの)と位置づけ、個人の勉強に役立てる行為ということになる。たとえば、ファイルを受け取る時に自分の本に「電子化ファイルを消去しない限り、この本は古書店には売りません。電子化ファイルを保持したままで、この書籍を処分する時には物理的に破壊して著作物ではなくリサイクル可能な資源に戻して廃棄します。」と誓約するというようなことで運用されている実例があるのか、あるいは私的使用を越える使用を裏付ける証拠を残してしまうようであれば、大変なことになる危険性もあるので、実現されてないのか、そういうところをぜひおうかがいしてみたいのである。
 自炊代行業のスキャンの代行は、個人で楽しむ範囲を超えているということで違法であると最高裁で確定しているそうである。元の本の所有者の希望のままにスキャニング行為を代行するのが違法であるなら、上述の「自炊したファイルの作成者」との違いは、もともと自分で使うために自分の本をスキャンしたかどうか、業としてお金を取ってやってないかという2点になりそうである。
 そして、学術書出版会社におかれては、電子化した書籍ファイルをDVDで添付(あるいは印刷体購入者にかぎり安価で追加販売)をご検討いただけないものだろうか。ただし、複数の書籍を横断してキーワードで検索するためにも、専用アプリで閲覧するような方式ではなくある程度業界標準の形式でお願いしたいと思う。

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