渡辺弘行氏の小伝

 購入して約1年になる《田中茂春:アートな散歩道 香川の野外彫刻53選、美巧社、2008年》を自炊していて、渡辺弘行氏がとりあげられていることに気がついて驚愕した。要約すると、
 1901年(明治34年香川県志度村(現さぬき市)生まれで、現在の高松工芸高校から上京して現東京芸大彫刻科へ進み、建畠大夢氏、後に朝倉文夫氏に師事。彫刻一本で生計を立てるのは「辛酸を嘗める」ものであったと記されており、ご近所の農地を借りて百姓をしながらの創作生活であった由。1988年没。
 著者が実際に取材したのは、五人の子どものうちただお一人彫刻の道に進まれた次男の隆根氏(東京造形大名誉教授、1939-2012.8.7)であったように読める。代表作《髪》(第十回日展特選作品)を含め、多くの作品が里帰りしていることになる。また、香川県内の偉人の銅像のいくつかが渡辺弘行作品であることも後述の彫像リストから知られるのである。そこに故郷香川県の人々の渡辺氏に対する温かな思いやりを感じるようにも思われる。が、東京都内の老人施設などにひっそりと設置され、検索にかからないものも多いのかもしれない。
 なお、この本は著者が地方紙連載記事をまとめて自費出版したものであり、amazon.co.jpでも(今のところ)日本の古本屋さんでも取り扱いがないのは残念というしかない。巻末のpp. 175-187の彫像リスト(ご本人は見落としもあるだろうと謙遜しておられるが約700体!)も著者が糖尿病対策のウォーキングで香川県各地を回ってお一人で足で稼いだ得難い情報である。

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