一生モノの三脚を買う

 筆者が使っている三脚は、大学に合格したときに写真館の館主さんから譲ってもらったスリックマスターで、手元の資料p. 65によれば1971年型とある。1975年の3月の自分の修学旅行では、同行の館主の集合写真撮影のアシスタントとして、マミヤプレスを載せたその三脚を担いで走り回っていたことを考えると、これはもう一生の宝もの三脚である。当時は高橋製作所のポータブル赤道儀の三脚として使用することを念頭においていたため、雲台部分は不要なので貰わなかった。
 ともに故郷を出て34年、大阪・岡山・福岡と引っ越してきたことを考えると、筆者とは最も古い付き合いのモノに違いないのであるが、本格的に使い始めたのはサンニッパを導入してからである。
 ところでしっかりしたプロ用の三脚というのは、一度買えば買い換えや買い増しをするようなものではなく、少数生産品の常としてデフレには強く、国産品の新品価格も失神しそうなくらい高価である。フジヤカメラには三脚ばかり集めた用品館が独立していて、中古品でも数万円以上はするGitzoなどの定評のある舶来品が文字通り林立しているのである。しかし、おばさまが山写真の先生とともに軽い三脚選びに興じておられたりするのを目撃すると、一生モノのしっかりした三脚を品定めする動機が不純のような気がしたり、2万円以下クラスの希少レンズとの一期一会の方に目が行ってしまったりで、なかなか三脚を買おうというところまで悟りが開けるものではなかった。そういう中で、あまりにも安いのに驚いてつい買ってしまったGitzoの2,500円雲台とボロボロのマスター三脚とを組み合わせて使っているのではあるが、あまりにガタがきて微風でも視野がブルブル震えるのである。いつかオーバーホールして新品同様のスムーズな使い心地にリストアしようと思っていたが、今やオーバーホールも謝絶されるほどのビンテージものになってしまった。
 それで、少し真剣に出物があったら買い換えようと思うようになった。
 レンズと三脚合わせて4 kg近い荷重がかかることと、自転車のかごに入れて運ぶという運搬形態から、割と短めの太い脚でどっしり安定するものがほしいのであるが、型番をたよりにカタログの数値(脚の直径とか閉じた時の長さとか重量とか耐荷重とか)を眺めても自分の用向きにぴったりなのかどうかこれほどわからんものはあるまい。実際に機材を載せて確認しなければわからないというのが結論であろう。
 この一年の間にフジヤカメラ用品館方面に出張する予定もなく、中古の三脚を購入することはかなり諦めていたのである。昨晩雨の夜の徒然にその在庫リストをかたっぱしから調べていくうちにマスター三脚の後継機種であるマスターIIの出物が6,000円ほどで出ていて、これならまちがいあるまいと購入のボタンをクリック。上述の(10年前発行の)文献には新品価格27,200円とある。今後34年間使ったとしたら、齢すでに米寿近い筆者は存命としてもまず間違いなく使い物にならないであろうが、三脚はもっと長いライフスパンで機能するに違いない。後半生モノの三脚として購入するのなら、もう少し奮発してカーボンファイバ製舶来のものを求めておけばよかったのかもしれない。
 後日記:という思いは、一応フジヤカメラさんから在庫確認のメールが来て、さあ銀行振込すればあさってにはもうマスターIIが宅急便で届くという時になって、梅田フォトサービスさんのホームページで三脚の選び方を読んで、さらに燃え上がった。
 曰く「三脚は一生のうちに三度買い換える。一度目は2000円くらいの安物、次はプロ用の重いアルミのもの、最後は軽いカーボン。したがって、あと10000円足してカーボンを買ーときなはれ。」これにはなるほど!と膝を打った。ここで涅槃のカーボンを購入できる筆者は、ひょっとして、三度の買い物を二度ですませることができるのであろうか。
 しかしながら、Gitzoのカーボン三脚をプラス10,000円で買えるわけがないのである。ロードバイキング主体の筆者にとって、加齢でこたえるのはレンズの重さであってカゴに放り込んだ三脚のそれではないと悟ったのであった。
 Gitzoの雲台は、よくよく観察すると"R3"の刻印あり。71年式のマスターに勝るとも劣らぬビンテージものと思われる。なかなかピタっと決まらず、ちょっとオーバーシュートさせて合わせようとすると、がくっと動きすぎてしまうあたりは、バラしてメインテナンスすれば、かなりよくなるのではないかとの期待あり。せめてグリースだけでも純正のもの(1,470円)を買おうかと思案中なり。
 

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