紀行文

 何かを求める旅は、裏を返せば筆者を求めている何かに探し出される旅であり、自分の知識や考えを越えた何かにめぐりあうワクワク感が待っている。
 やきものの買い付けでも魂の遍歴でも、そういう紀行文で著者の旅の感激に共感できないと、これは惨憺たる道中となるが、せめて旅で行くべき場所のガイドブックと割り切って読まなければならなくなる。巷間売れているのはリストアップされた行き先を一つずつチェックして行く旅に最適化されるよう割り切った編集を施したガイドブックが多いのであろう。
 旅する人の思索の旅程を垣間見せてもらったという意味で、《フランスの不思議な町》は不思議な紀行文である。
 表紙写真のポムレー小路にはいつか行って「階段のあちこちでいとおしいポーズをとる真っ白な少女像」をかたっぱしから撮影したいと冀うものである。カバーや扉、本文中の写真についても一部の例外を除いて「全て自分の撮ったものだ。ほとんどがオートフォーカスの小型カメラを使い、記憶と感動のために息をころしてシャッターを押したというだけの写真」(あとがきより)ということで、秀逸な構図についてはトリミングを担当されたアートディレクターに花を持たせて、自分はぶれてない写真を撮るのに専念しただけと謙遜しておられるが、カット写真にハッとさせられるもの多し。
 というより、本書のもとになったのが10年間毎月月刊誌に連載されていた紀行文であることのほうに驚くべきかもしれない。

フランスの不思議な町

フランスの不思議な町

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