ファウントゥンペン

筆者が高校生の頃、裁判所の通りの向かいの萬年筆屋さんによく遊びに行っていた。そこは、年配の女性がお一人でなさっていた。アベミツコさんというお名前であったが、我々は敬意を込めておばあフレンドとお呼びしていた。貧乏なので、舶来の萬年筆を買うことはできなかったが、萬年筆の審美眼はすさまじく肥えたのだった。また、おばあフレンドから、萬年筆の書き味の良し悪しについてはしっかり教えてもらった。
それから幾星霜、もうそのお店はないのである。この度の転属のお祝いに、元ボスから国産を一本、岡山時代からの知り合いのクライアントさんからペリカンを一本、萬年筆を頂戴した。これに筆者が学生時代に愛用したMont BlancのNoblesse ♯1124一本と誰にもらったのかはっきりしないが、国産の一本を加えた4本が全財産ということになった。
 若い頃の萬年筆というのは実用本位なもので、現在は使い捨ての水性ボールペンに取って代わられてしまったポジションであった。もちろんインクは靴の形をしたインク瓶から吸い上げて使うのであって、割高のカートリッジを使うことなど論外であった。今回頂いた萬年筆は、いわゆる条約の調印式に出てきそうな太軸太書きのもので、スポイト式ではないから、使うのにはかなり抵抗がある。
この間若かりし頃にプレゼントした速記用ペン(Reformというブランドのもの)を亡父の机の抽き出しに見つけた。これこそ実用本位の一本であるが、はたして父は使ってくれたのか。これを相続すれば合計5本ということだ。おばあフレンドが在庫していたステノグラフペン2本のうちのもう一本は自分持ちにしていたのに、待兼の生協の露天の教科書売り場で紛失してしまった。1978年4月の悔しい記憶である。

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