イギリス海岸

 イギリス海岸それで、とうとう決心して、新幹線で新花巻駅までの往復切符を購入。たった10分の行程なのであるがそこから先が長い。
 タクシーで似内駅まで行って、そこからイギリス海岸まで歩いて、花巻駅から釜石線新花巻駅まで戻る心づもりであったが、タクシーの運転手さんに言わせると「似内駅から歩くなんてとんでもない。それにイギリス海岸は真っ暗で何にも見えないよ」とのことである。しかしここまできてしまったのだからしょうがない。イギリス海岸まで連れていってもらうことにする。新花巻駅から15分くらい暗い道を走って、さらにその道をそれて北上川の堤を越えて河川敷に入ったところにイギリス海岸はあった。タクシーで真っ暗な駐車場に入るとき、一台車が停まっていたが、そそくさと出ていかれたのはかなりお邪魔をしてしまったのであろうか。とにかく、街灯も何も無いところである。運転手さんはこんなところでほうりだしていては商売にならないと思われたのであろうけれど、歩いて花巻駅に出る予定と説明して運賃を精算。
 川に落ちるとカンパネルラのように行方しれずになってしまう危険性が大であるので、目でうっすら見える範囲の遊歩道を散策し、木製のベンチに腰掛けて北上川の瀬音を身体にしみ込ませる。この闇と瀬音だけは賢治の頃と変わっていないのではあるまいか。
 賢治のあの独特の世界観を育んだ北上川はどんな大河であろうかと思っていた。筆者は、岡山に住んでいた頃に後楽園付近の旭川の河川敷をひそかにプリオシン海岸に擬していたのであるが、そのモデルとなったと考えられているイギリス海岸付近の川幅は夜目に見える範囲では、むしろ日ごろ親しんでいる室見川の河原橋付近くらいなのである。カリスマ性があったのは、北上川ではなくてクリエーター本人の天才であったことに思いをいたしながら、花巻駅へと徒歩で移動。

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