Craig Venter: ヒトゲノムを解読した男

 昨晩帰宅して早速読み始めて、本日夕方までかかって読了。おknee様は「二重らせん」と違って読み返すほど内容のあるものではないと示唆されていたが…。
 データゼネラル社のミニコン開発を描いた超マシン誕生―コンピュータ野郎たちの540日 (1982年)においても、チーフエンジニアが、嵐に遭遇してまったくひるむところのないヨットマンであったことを懐かしく思い出した。社内のエンジニアを2つのチームに分けて既存ハードウェアの改良と上位コンパチ機種の開発を競わせ、IBM製品を上回る性能のミニコンを作り上げるストーリーであった。これと似た対立と拮抗がゲノム解読競争では、国家的な規模で行われたというわけであろう。というので、Venter氏の境遇に感情移入してしまいそうになっても、大学生のころからPNASに論文を書いているようなエクセレントリサーチャーに共感するのは勘違いもはなはだしい、ということに思い至るのである。
 一方で、Venter氏はADHDであるとカミングアウトしていて、そこらへんは全国のADHD児をお持ちの方に希望と勇気を与えてくれるものであると信じたい。なお、本書の内容の半分は、ヒトゲノム解読に至る論争やいさかいに割かれている印象であるが、筆者はたまたまTIGRやCeleraの論文のほとんどを収集し拾い読みをしたことがあるので、『スミスは「新しいクローニングベクターをつくり、基本的に100パーセントのコロニーにヒトDNAを含ませる自信がある」と断言したので、青白判定を省略して次の段階に進めるようになった。(p. 362)』をはじめとするちょっとしたギミックのご披露に過敏に反応してしまうようである。なお、このクローニングベクターサルガッソーのメタゲノム解析ではコードネーム不詳であったが、Venter氏の個人ゲノム論文ではちゃんとpHOSと記載され、その特徴が記載されている。
 というので、気がつくのはVenter氏のチームが国際コンソーシアムに先んじてヒトゲノム解読に成功したのは、決してお金に物を言わせた物量作戦に、細かいギミックを組み合わせてランダムショットガンシーケンシングを使いものにするための工夫を怠らなかったためであるということだ。サルガッソーの論文にはそのノウハウが隠すところなく正確かつ誠実に記載されているのは間違いのないところで、元プロジェクトリーダーにこういうところをかなり詳しく読み込ませられた経験は、まさに筆者にとっての財産である。
 論争相手の大御所に対する批判も相当に手厳しいものがある(が、その方々もすでに回顧録を出しておられるので、両方読み合わせるのがよいのであろう)。ちなみにウェブサイトには誤植の訂正のページもある。[本]

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