河井寛次郎:火の誓い

 それほど厚い本にはあらねど、何度も何度も読み返している。しまいに風呂の中で読み返しているうちについ寝入ってしまって、文庫本の裾をお湯につけてしまったほどなり。滋味あるエッセイ集である。出雲の米と野菜から身体を貰い、大自然の生きとし生けるものから贈り物を貰って育った子供の一人、寛次郎さんは、それらの贈り物を中学の学習参考書のエッセイを読んだ筆者にもおすそ分けしてくれたのである。もとより筆者の心や身体の一部は寛次郎さんからの贈り物でできているのである。爾来35年たってその素晴らしさに気がつく歳回りとあいなったということなのであろう。
 寛次郎さんの文章の手触りは、白磁のような流麗さではなく、むしろ(触ったことはないが)寛次郎さんの作品の肌理に近く、滑らかだけれど凸凹がある感じかなと思われるのである。寛次郎さんが東工大の前身をご卒業なのにはまた一驚(これは以前福岡市美術館の?次郎展で既知のはずであるが、忘れているのである)するが、突如、平成5年か6年くらいに足立美術館で拝見した事があったことを思い出してまた一驚。
 それはそうと、そうなるともともと寛次郎さんの筆になると誤解していた、「幻燈に映し出されたドイツかオランダの洋館の窓が開いて中から少女が顔を出す」というファンタジーの出処が、これはこれで大いに気になる。
 こういう時には、火星人地球大侵略の例をひくまでもないが、うまくgoogle検索を行うのが効果的なわけである―――特にそれがオンラインにあるならば。で、「大佛次郎:幻燈」というキャンディデートを発見したのであるが、大佛次郎氏が野尻抱影氏の実弟であるというのにまたまた驚く。
 青空文庫に収載される(没後50年は2023年)のはまだまだ先ということで、venusに「大佛次郎:幻燈」を探しにいくが、全集ものでは収録を割愛されている。[本]

本ブログではamazon associate広告を利用しています。