バスセンターにたどりついて

 汗を拭って、喫煙スペースの椅子に腰掛けようとしたら、カップルが占拠しており、座れず。というのも惜別の情ゆえ寸暇も惜しんでキスしているのである。まるで1950年代の巴里である(カメラジャーナル111号にそういう記事あり)。キスしながら目を開けて周囲の様子をうかがう余裕のあるカップルなのでその一帯座れないわけである。撮影もせず。
 急行バスの発車を遅らせてまでキスの続きをやってカレシが乗り込んだら、彼女はもう泣き顔でお見送り。なかば呆れて観察していて、そんな風に、離れるのがつらいことが自分にもあった、そういう人がいたことを思い出す。それは記憶の片隅に押しやられてしまったが、筆者の人生の宝物ではないか。今彼らはその宝物を手にして、どうすればよいのか戸惑っているのだ。さすがにここまで人目をはばからないと傍若無人と言われかねないが、周囲が目に入らないのも若者の特権といえるかもしれん。まあ、ケイタイですぐに通信チャネルを開ける便利な世の中にはなっているんだから、そこまで悲愴感漂わせるんぢゃねぇぞ、とか言ってみたくもあるけれど。

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