筆者の高校生活の中で大きなウェイトを占めていたのは、物理部というクラブ活動であった。字面だけ見ると、とても体育会系とは思えないが、山に登って鉱物を採集し、ペルセウス流星群の観測明けにソフトボール大会をやるという体育会系の活動をしていたのである。
その当時、築地書館の《鉱物採集の旅》シリーズは、関東地方より西の地方を網羅して刊行された。筆者はわずかに《四国・瀬戸内編》を所蔵するのみであるが、著者の鉱物への情熱は今も変わらず読者の魂を震わせるのである。その筆に誘われて、青空を眺め、ブヨを追い払いながら、ヤブを漕ぎ、峠を越えて鉱物を求める夢を時々見る。今や鉱物産出の絶えた産地の往年の状況(このあたりのフォローアップは《夫唱婦随の石探し》に詳しい)を知るための古文書でしかないわりに、古本市場へ出てくると3万円あたりのいいお値段のつく稀少本になっているのは、実にその文(はお人柄を表わす)の部分に対する評価なのであろう。
筆者としては、文化財として公的な保存を進めていただきたいと考えるので、福岡県立図書館蔵書に《東京周辺をたずねて(シリーズ第1巻)》、《九州北部編(第3巻)》、《九州南部編(第4巻)》、《東海地方をたずねて(第5巻)》を確認して一安心したところである。