無人島にスキャンして持って行きたい十冊の本

 今週勃発した「自炊」祭りが思わぬ方向に進んでいる。
 最初は、90年代に購入した記念碑的なーということは、既に実用的ではないという意味であるー本を廃棄する前にスキャンする感覚で作業していたのであるが、何かにとりつかれたように、何でもかんでも裁断してスキャナにかけないと気がすまない感じになってきた。本棚2スパン分くらいの本をスキャナにかけて、大きなゴミ袋3つにリダイレクトしてしまった。推定60 kgの本からスキャンしたファイルの容量の合計は6 GBなのである。すなわち、PDF収量は、本1 kgあたり100 MBくらいと推定される(1000頁の本が128 MBくらいになったことからも、この推定は概ね正しいと考えられる)。しかも重さゼロでタバコ臭さもカビもホコリからもフリーで、落丁しかけたページも完璧に修復可能である。それで、(32 GBのマイクロSDに)まだまだ入る!006SHやiPad 2で持ち歩いて、いつでもどこででも読める!ということを「発見」して、すっかり火がついてしまった。十冊と言わず、ありったけの本をメモリーカードに格納したい、という欲望なのである。
 TVのインタビューが来た時には、背景の本棚にどっさりと本が並んでないと困るかもしれないが、当面取材の申し込みのくる気遣いはなく、PDFファイルのサムネイルを表示させたデュアルディスプレイを背後に持ってくればなんとかなるだろう。
 ということで、なかば寝食を忘れてせっせと作業し、ガラガラになった本棚を眺めるうちに、今度はバーチャル退職トライアルをやっているような気分になってきた。対象になる本が少なくなって片付いてきたら、だんだん中毒から離脱するだろうし、このあたりで一度身軽になっておくのは悪いことではあるまいと考えていたら、あにはからんや、スキャンする本を調達しに近隣の古書店に行こうとする衝動を感じる始末である。これは尋常の依存性にあらず。
 帰宅してCEOに打ち明けると、うちの本棚にもスキャンすべき本がいっぱいあることを指摘された。CEOには別の思惑があるのに違いないが…一応目についたものを床に積み上げてみる。第一陣は、カーニハン&プローガー《ソフトウェア作法》、《文系のためのSPSS超入門》、《生物配列の統計》、《数理生物学入門》、《カンブリア紀の怪物たち》、ファインマン先生三部作あたりになりそうである。
 というので、数十万円の対価を払ったに違いない本の山は、リアルの世界では60 kgの紙くずと化してしまったが、電子化することによって生まれる可搬性、保存性や検索可能性の魅力は、美しい装丁を愛でることのできるリアルのそれよりも優っていると思われる。「情報」の対価として本代を払った、これでよいわけである。装丁担当の方には無礼千万な話であるが…。[文献整理]

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