月夜に霧の精に遭遇

 昨晩から雨が降り続いていたのが、宵に止んで星が出ているので走りに出る。ややフォギーながら、冷え込みも緩み、満月を少し過ぎた月の光さやけし。撮影準備に入ろうとするところへ、スポーツバッグを提げた霧の精が足音もなく登場。
 その姿は霧の中にあるやうにて表情も見えず。第一声はせるふすいさいどしようと思って3日前にやってきたができなくて本日に至れり。以前アマチュア天文家の手記で、山奥の天文台で観測中、志願の方が黙って横に立って見ていたというような話(結局星を見ているうちにすっかり立ち直ったというハッピーエンドであったと記憶する)が頭をかすめるのである。ともかく、現世の人と会話したいくらい余執があるようではたぶん決行は難しいのであろう。問わず語りに曰く、3か月前に住まひを失ひて、有り金のすべてを処分して、ここをつひの場所にと思い定めて移り来りて、屋根のあるところで雨露をしのぎはや3日になりなむとす、と。筆者答えて曰く、かくも美しき月の夜の晩にあさましきわざあるべからず。命の緒絶たざればまたよきこともあらめ、と。早々に退散する。
 木の芽時のオープニングなればほんとに志願者の方なのか寸借の方か、はたまた…といぶかりつつ帰ってきてカメラとレンズを取り出してみたら、水滴が滴り落ちるような状態であった。先ほどまで快晴であったのに、また雲厚く雨が降りはじめたところから判断すると、これは霧の精のしわざに相違なし。
 

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