小学校の頃、何かの本(の刊行のしおり?)に「松の新芽を砂糖水につけて、晴れた日は日なたに出して、夜には家の中に取り込む」と何かできると書いてあるのを読んで、松の新芽が出るこの時期に気になっていた。言うまでもなく、気がついたときには新芽はすっかりと硬い松葉になってしまっていて、ああ今年も間に合わなかったか…とがっかりしていた。しかしそもそもそれで何ができるのかさえ記憶にはない。妙な話ではあるが、幼心は結果ではなく実験の操作そのものに捉えられていた。
今なら元の文献をたどるまでもなく、キーワードサーチでこのような伝承の情報にもアクセスできるのは素晴らしいことである。それは松葉サイダーであるようだ。筆者は若い松の芽から何かを抽出するものとばかり考えていたが、さにあらず、実はショ糖溶液は培地であったことに驚いた(そう言われてみると、陽の光にあてる時には密栓してはいけないとオリジナルの文献にも書いてあった記憶がよみがえってくる)。したがって、ここで大事なのは、松葉が新芽かどうかではなくて、松葉の表面に共生している酵母なのである。ショ糖培地に選択性はないが、「梅雨時を過ぎた」盛夏に日向においた培地の温度はおそらく40℃くらいにはなるであろうから、高温と紫外線耐性で選択をかけている可能性がある(かも)。環境細菌(雑菌)のコンタミを防ぎながらうまく培養するための無菌操作については、大げさに言うも愚かなれど、小学校以来のキャリアはすべて松葉サイダー作りのための予備実験であったと考えられなくもない。[農耕民族の血が騒ぐ]